一点の作品を、ともにつくる。オーダーメイド作品が完成するまで
現在、ご依頼いただいた作品の制作を進めています。
オーダーメイドで一点の作品を制作する際には、既に完成している作品を選んでいただく場合とは異なる、いくつかの大切な特徴があります。作品の制作に取り掛かる前に、私はご依頼者様にその点をご理解いただいたうえで、制作を進めるようにしています。
アナログ作品だからこそ、まったく同じ作品はつくれない
まず、油彩画をはじめとするアナログ作品には、デジタルデータのように「まったく同じものを複製する」ということができません。
筆の動き、絵具の重なり、色彩の微妙な変化、画面に残る質感など、制作の一つひとつの工程によって作品の表情は変化します。同じ作家が、同じ構図や色彩を意識して制作したとしても、最初に生まれた作品と完全に同一のものを再現することはできません。
これは、アナログによる一点制作の大きな特徴でもあります。
また、以前に作品をご購入いただいた方がいらっしゃる場合、その作品をそのままコピーして新たな作品として制作することもできません。以前の作品を所有してくださっている方の権利や、「自分だけの一点を所有している」という喜びを損なうことにつながるためです。
「同じものがつくれない」からこそ、オーダーメイドになる
しかし、「まったく同じ作品はつくれない」ということは、オーダーメイドにおいて単なる制約を意味するものではありません。
むしろ、そこにオーダーメイドならではの大きな魅力があります。
既に存在する作品を選ぶのではなく、ご依頼者様のご希望をうかがいながら、その方にとってより好ましい状態へと作品の方向性を考えていくことができるからです。
どのような雰囲気がお好みなのか。どのような色彩にしたいのか。作品からどのような印象を感じたいのか。そして、その作品をどのような場所に飾り、どのような思いで眺めていくのか。
そうしたご希望を一つひとつうかがいながら、作家としても「どのような作品であれば、よりご満足いただけるのか」を考え、ご提案していきます。
ご希望をお聞きし、意見を交わしながら作品の方向性を定め、仕上がりのイメージを共有する。そして、その方向性が決まって初めて、実際の制作へと入っていきます。
この過程こそが、オーダーメイド作品の大きな醍醐味の一つだと考えています。
完成を待つ時間も、作品の一部になる
オーダーメイドでは、完成した作品だけが特別なのではありません。
制作に入る前に「どのような作品になるのだろう」と想像し、作家と仕上がりのイメージを共有し、完成を待つ。その時間そのものが、ご依頼者様にとって特別な体験になっていきます。
既に完成している作品を購入する場合とは違い、まだ存在していない一枚の絵を、作家とともに思い描くところから始まります。
もちろん、最終的に作品を描くのは作家です。しかし、そこに至るまでの「どのような作品にしたいか」という部分には、ご依頼者様の想いや好みが確かに存在しています。
その意味で、オーダーメイドの作品には、作家だけでは生み出すことのできない、そのご依頼者様だけの背景が生まれていきます。
夢を共有したあと、作品を託していただく
一方で、オーダーメイドだからといって、制作の最後まで作家とご依頼者様が一緒に細部を決め続けるわけではありません。
作品を具現化する段階では、作家自身が時間を使い、筆を動かし、試行錯誤を重ねながら一枚の作品へと仕上げていく必要があります。
ご依頼者様と一緒に仕上がりの夢を描き、その方向性が定まったなら、そこから先は、その夢を一度作家に託していただくことになります。
それは、単に「注文したものを待つ」ということとは少し違います。
打ち合わせの中で共有したイメージをもとに、作家が作品として具現化していく時間を待つ。その時間を経て、まだ存在していなかった一枚の絵が、少しずつ現実の作品へと変わっていきます。
一点だけのために生まれる時間
オーダーメイド作品には、既製作品にはない時間があります。
ご希望をうかがい、方向性を考え、仕上がりを想像し、そして制作を託していただく。そうした一連の時間を経て完成した作品には、その作品そのものだけでなく、完成するまでに積み重ねられた思いや時間も含まれています。
だからこそ、完成した作品を手にしたときには、「絵を購入した」というだけではない、特別な思い入れが生まれるのだと思います。
一枚の作品をつくることは、作家が一方的に作品を提供することではありません。
ご依頼者様と作家が、まだ存在しない一枚について考え、そのイメージを共有し、最後には作家に託していただく。その過程そのものが、オーダーメイド作品の価値の一部になっていきます。
そして、長く待ちわびた作品が完成したとき、その一枚は「自分のためにつくられた、世界に一つの作品」として、ご依頼者様のもとに残っていくことになります。
私は、オーダーメイドの制作とは、単に希望されたものを描くことではなく、ご依頼者様とともに一つの作品の可能性を探し、最後にはその作品を託していただくことだと考えています。
完成までの時間も含めて、一枚の作品がご依頼者様にとって特別なものになっていく。その過程そのものも、オーダーメイドで作品をつくる魅力の一つなのです。

